未知の宇宙への方舟 Ⅱ(SF)

 第1章「 地球からの近宇宙 」

 太陽系は既知のものであった。
 太陽系から程近い恒星系に、最新鋭航行技術の粋を集めた宇宙船で散っていった少数の人類がいる。地球では彼等の事を開拓者と讃え、彼等の住む幾つかの惑星への移住を推し進めている所である。
 地球惑星は、大気が化学物質、埃、放射能で汚染され透明度が薄い。かつて、陽の光を大地に浴びていた人類達は建物内に籠り、宇宙開拓者達の指示で独自の地球脱出計画を立案中だった。
人々は、避難の順番を待つ事で明日への生きる希望としていた。

 既に情報を得ている4惑星への移住選択権は個人個人に委ねられた。家族単位で「 煌星 」を選択する者、仲間内で「 干星 」を選択する者、国家民族で「 緑星 」を選択し、宗教で「 美宙星 」を選択する者達。様々であった。
 そんな中、原住生物と交戦中にあると交信があった惑星には、数十隻の宇宙船が既に向かっていて、逐一、タイムラグのある情報が1日毎に地球に齎されていた。それらは驚くべきもので奇跡でもある。

 太陽系からの近宇宙はある程度、天体望遠鏡で解明されている点が多いが未知の部分も計り知れない。空間軸と時間的狭間、物質的な不可視部分が大多数存在している。太陽系内から見た太陽系と、太陽系外から見た太陽系もまた違ったものだ。
 それは今迄、太陽系内に居る我々人類が、地球上から大気圏を出て見下ろした地球の青さを知った瞬間に似たものであった。天体の動きは何時も規則性があり、不規則性も持っている。

 近宇宙と言っても未だ数光年先の地球から直近の惑星の様子だ。違う恒星系ではまた、太陽系とは違う惑星の特色があり、視る事が出来る宇宙の姿も異なる。たった数光年離れた惑星でもそれ程なので、地球に残してきた技術や物資で更に先の恒星系に、既に人類が到達した惑星を経由して行く事が出来たらどんな素晴らしい景色を視て体験する事が出来るだろう。
 地球からでは観測出来なかった恒星系も観測出来るし、未知の宇宙現象も観測可能に成る。観測地点位置が数光年地球から移動するからである。

 地球は宇宙での1つの形態であって、それが全てでは無い。この宇宙には無限の形状的、神の芸術作品が残されていてそれを深夜に人間は夜空で愛でる事が出来る。肉眼や天体望遠鏡で。

 ここからは、それぞれの煌星、干星、緑星、美宙星での近況の話になる。

 地球脱出から半年が経っていた頃。煌星では、幻想的な毎日を百数十人が過ごしていた。ライトシェードとディーアラートは、仲間たちと一緒に農耕狩猟生活をしていた。地球から持参した物資を有効活用しながら。
 昼でも恒星の日の光を受け熱を感じながら、星空が同時に紫色、赤紫色で見る事が出来る不思議な惑星。この惑星は不思議な事に、獰猛な野生生物が存在していない。1日が24時間では無く、不規則な時間を計測する。昼に当たる時間が短かったり、長かったり、四季を感じさせない魅惑的な惑星だ。
 一定の条件を満たすと、人々の目の前に「ミカエル」が現れた。そして、生活の助言と惑星の造りを告げて去って行った。彼女の助言は必ず真実であり人々の信仰を集めた。
 彼女の言う通りに農耕狩猟を行うと、必ず上手く事が運んだ。見知らない土地に恒星光で蓄電した電動バイクで行ってみると、必ず彼女の話した通りの地形が存在し出来事が起こった。
 地球人達は、ミカエルの事を「慈愛の光り輝く女王」と呼んで讃えた。

 干星では、砂嵐により農耕が極力不可能であった。だから、近くの山脈に行き、狩猟で肉を得て、木々の実りの果実や草木の葉を採取してきて熱を加えて食した。
 文明が無い事を調査で知ると、地球人達は恐竜に似た動物も狩り始めた。食すると意外と美味しく濃厚な味がする。1頭の動物を狩ると、保存食用に加工し何日も同じ物を食して命を繋いだ。
 ノーティスレースは、それでもこの広々とした惑星に可能性と自由感を覚えて、自然界の物を加工して独自の道具を造り上げ、自給自足の生活を満喫していた。

 滅んだと思われる低古代文明の遺跡に一度、数人で行ってみた。人間とは骨格が異なる骨の様な物と、生活の跡があり、石造りの建物も存在して、簡易の神殿の様な物も認識出来た。
 後に、皆で本格的に調査をする予定を立てて、その場を立ち去った。
 ノーティスレースは海に出てみた。水分分析は終っていて、人間に害はさほど無い。乗り物から降りて、沖を眺めていると大きな海の動物が時折、背を海面から出して危険を教えてくる。
 暫く砂浜に横たわって、考え事をして日が傾いてから宇宙船のある基地に戻って行った。

 緑星の話である。
 辿り着いた宇宙船は5隻で、緑豊かな原始地球に似ている。船員達は、降り立った大地が栄養価に富み、森林山脈には動物達が溢れかえり、海川には形の可笑しな魚達が魚影濃く泳いでいるのを知って喜んだ。
 まるで太古の地球の様である。

 この恒星系の恒星は、昼には燦々と大地を照らし、夜には星明りだけの暗闇と成る。気温と湿度が人類に適している。半年間過ごしてみて現在は秋の様な気候で、天には雲が空高く形を成していた。
 辿り着いた70名程の人類は、他の惑星に辿り着いた仲間たちに「ここは第2の地球だ」とのメッセージを送っていた。
 森林は濃い所は密林と成り、ジメジメしていて生命の息吹に溢れている。森林の薄い所は草原の様にカラッとした乾燥した空気で、一面に下草が生えている。
 川には河川敷の様に軽石が転がり、下流に下ると扇型に川は大きく成り海に出た。海は水平線があり果てしない。波が綺麗に微風を受けて滑らかに斜面を造っているが、海水が透明過ぎて海底を写し出している。
 一切として人の手が加わって居ない自然界の秘境のような光景だ。一同は、満足感と達成感に包まれて、半年間を過ごしていた。未だ来ぬ寒冷期を知らずに。

 美宙星では、1日の2/3が夜であった。どうやら大陸が惑星の自転軸の極点付近にあり、恒星に対しての自転軸と大陸位置の関係で日照時間が短かった。
 白昼が終わると、夜は氷点下まで気温が下がり、天体望遠鏡で天を覗き込んでいるみたいに夜空に星の川が見えた。
 しかし、寒冷なこの星にも動植物はそこかしこに居て、食べる物には困らなかった。

 辿り着いた宇宙船は2隻。30人程である。
 海岸線には氷河が押し寄せ高い壁を造っている。何故か、7色のオーロラがここでは視る事が出来た。
 30人は家族の様に仲が良く、遠くに離れないで暮らしていた。電気バイクを充電するにも時間が掛かり、また寒冷地だから直ぐに電気系統が凍り遠くに行く事が出来ない。
 皆で試行錯誤して、宇宙空間に置いてきた衛星でこの星で一番過ごしやすい大陸部分を探して、宇宙船を置き去りにして移住しようと考えていた。

 地球では、宇宙船の組み立て作業が急いで行われ、4惑星へそれぞれ数千人が出発の準備をしていた。
 第5惑星では奇妙な出来事が起きている最中でもある。

 

 第2章「 未知の惑星での冒険 」

 地球上時間では、50隻に増援した宇宙船が原住高等生物と応戦中であると伝えてきた、到達5番目の惑星に出発してから8ヶ月が過ぎていた。
 地球の各国は、それぞれに国際協力体制の下、宇宙船の製造と生き残りを掛けた環境維持、そして生活環境の改善をも図っている。
 最先端技術を駆使した宇宙船の設計図が存在しても、製造方法が確立していても、どうしても地球上では格差が存在する。国々の貧富の差や技術力により、急ピッチで宇宙船を製造できる国、全くとして製造技術も物資も持たない国が存在していた。

 貧富の差、国家権力、社会的地位により、宇宙船に乗員し他惑星を目指す順番も決められた。一方で、抽選により順番が決められる国々も存在している。
 しかし、既に各国の物資調達情報では、各国の全ての住民を製造した宇宙船に乗せる事は出来ない事を算出していた。政治家、学者、富裕層、官僚等は、食糧、宇宙船を造る金属やその他材料等の物資不足を公表せずに、我先にと他惑星への移住優先順位を決め、情報を隠蔽し計画を練っていた。

 ディーアラートの指示通りに、子供、女性を最優先せず、地球上で権力を貪っている富裕層が最優先された。特に、難民戦争中に、一時的に宇宙空間に避難をしていた富裕層は、自らの権限をまた最優先し、先を競って他惑星を目指す事を申し出た。

 煌星では、上空に残してきた人工衛星と着陸した宇宙船に搭載されたコンピュータで、大まかな惑星の構造が明らかに成っていた。
 大陸の形、山脈の形状、海、湖の深さ、海に囲まれた島々の分布と数。
 宇宙船で着陸した地点から、電気バイクで周りを探索した半径は100キロメートル程に成っていた。農耕生活で地球から運んできた穀物・植物を育てて食料にする一方で、狩猟に恒星光充電電気バイクを用いた。
 動物は地球と極端に違い、牛、豚、ウサギ、鹿、馬、その他に似た生命が居なかった。だから、手探りでの狩猟を行ったり、動物用罠を仕掛けて、翌日にそれに動物が掛かっているかを見に行ったりした。
 食べられる動植物は、既に知っていた。
これらはミカエルの助言によるもので、狩猟・農耕生活で得られた獲物と収穫物の一部は、宇宙船着陸とミカエルの為に立てた記念の石碑兼祭壇に、必ず御供えをした。

 ディーアラートが第3子を身籠った。煌星で出来た人類初の生命である。
 ライトシェードと百数十人の仲間達は大喜びして、中年齢のディーアラートを労わった。生命誕生に必要な要因である愛のある性交渉。それを経て、新たに産まれようとしている生命は、煌星の大地から得た食料、水、大気から約数千億分の1の確率で母親の胎内に今、居る。
 ライトシェードとディーアラートの子供達は利発で、新たな生命の誕生に期待感を膨らませていた。
地球では普通の出産では約10ヶ月間、母親の胎内に居て出産されるのが昔からの人間の習性だが、この惑星の特性は地球とはまるで違う。どんな赤ん坊が産まれてきて、どんな育ち方をしていくのか。
 ライトシェードはディーアラートを労わって、昼夜、狩りに農耕に精を出して働いた。

 丁度、陽が傾き、星空が赤紫色と紫色に染まった頃、ミカエルが現れると、大地が白色光で真っ白に色付いた。
 皆がシェルターハウスから出て来て膝を突いて彼女を見詰めていると、ライトシェードとディーアラートと2人の子供達も、寝具のまま簡易の家から出て来てミカエルを迎えた。ミカエルは何時もより大空高くの宙に浮いていて皆の頭の中に語り掛けてきた。
「 この惑星に移り住んで、初めての命を貴方方は授かりました。皆で狩猟をして動物、魚類、植物を食し得た新しい命です。尊い命と心して育てて下さい。私からの贈り物はこれです 」

 ミカエルが掌を空に掲げると、真っ白の空間の頂上から一つの光輪が降りてきて、ディーアラートの腹部に吸い込まれていった。ディーアラートは体に熱いものを感じて、腹部に生命の息吹を感じた。
 それは、凝縮された魂の塊である様に感じられた。
 ミカエルが慈愛の眼差しを皆に空から贈ると、また、大きな光輪となり宙のどことなく飛んでいき、真っ白な世界も赤紫色と紫色の宙に戻り、星空だけが残されていた。

 出産はその23日後で、妊娠から100日間足らずで、ディーアラートはこの惑星重力の下、5137キログラムの大きな女の赤ん坊を産んだ。
 この赤子の名前を、ミカエルの名前から頂いて「 ミサエル 」と名付けた。この子の事を皆はあだ名で「 ミサ 」と呼び、産まれてから光り輝くこの子を、ミカエルの贈り物としてディーアラートを後見人として天使と崇めた。
 ミサは産まれながらに、何故か黄金色の光輝を纏っていて、その存在自体が不可思議であった。彼女が泣くと雨が降り、笑うと晴天が続いた。そして、彼女の発する鳴き声は甲高く澄んでいた。未だ、ミサが0歳児の時であった。

 一方で、干星での出来事である。
 自由気ままにノーティスレースは、惑星の電気バイクで行動出来る範囲を日中に旅してきては、夜にベースキャンプ地に戻って来る事を繰り返していた。
 恐竜の様な動物は頭が良く、一度、人間に恐怖心を抱いたらキャンプ地に近寄らなく成っていた。恐竜の様な生物にも伝達能力があるのか、人間の姿を見掛けるとゆっくりと遠ざかって行った。

 或る日、ノーティスレースが1人で低文明遺跡を探索していると、金の塊らしき大粒の欠片が落ちていた。それに気付いた彼女は、それを拾おうとして屈み込むと、周りを人間に近いが人間では無い薄茶色の肌をした生命に取り囲まれていた。
 彼等は皆で槍の様な金属棒を彼女に向けている。
 ノーティスレースは「 そういうことか 」と心で思い、両手を上げて立ち上がった。原住民達は、彼女が無抵抗なのを知ると、彼女が着ている服や装備を面白そうに不思議がって触っていた。
 正に青天の霹靂であった。まさか、原住民族が生き残っているとは思わなかった。

 彼女は衣類から装備まで全て盗られて、酋長らしき者の所へ連れて行かれた。それは祭壇らしき岩場から数キロメートル離れた所であった。
 酋長が何やら複雑な発音言語でノーティスレースにあれこれ話しかけてきた。彼女は最初、英語とジェスチャーでコミュニケーションを取っていたが、酋長の横にいた若い原住民族の男が椅子から立ち上がり、彼女に近付いて来た。

 彼は自分の事を指さし「 バヴィロン 」と何度も繰り返した。そして彼女に、自分の着ている服を着せて挙げ、更に自分の持っている黄金と宝石で装飾された胸飾りを首に掛けてくれた。
 そこに居た原住民族の皆が騒然として騒ぎ出した。
 ノーティスレースはどうやら求婚されたらしいと感じた。周りを囲んでいた原住民の皆が後ずさり地に頭を突き平服した。
 この原住民族の伝説の逸話で、必ず未来に絶世の美女が現れ、民族を救うという物語が言い伝えられていたのを、1晩掛けて皆に異国の言語で説明されてノーティスレースは理解した。

 無線の連絡機で安全をベースキャンプにノーティスレースが伝えると、彼女はこの原住民族との融和を図るべく色々なジェスチャーや絵を描いて、バヴィロンや酋長や皆に地球惑星の事や宇宙船で来訪した事を伝えた。
 バヴィロンは彼女から離れずに、森の深い中にそびえ立つ石造りの街並みと構造物を案内してくれた。原住民は、1万人は居る様だった。彼は彼女に沢山の宝石や貴金属を与えようとし、その都度、彼女は受け取りを拒否した。壮大で優美な胸飾りだけ頂いて。

 バヴィロンは彼女に好意がある様であったが、彼女に何も求めなかった。酋長の妻に逢された。彼女は只、「 酋長ヴィロンの妻 」とだけ名乗り、ノーティスレースを最愛の娘の様に歓迎してくれた。
 ノーティスレースの心の中で、バヴィロンへの愛情が芽生え始めていて、原住民が家族の様に思えてきた。

 安否を心配したノーティスレースの仲間が迎えに来てくれた。彼女はバヴィロンや原住民達に再会を約束し、バヴィロンに歓迎の御礼に抱擁をして去って行った。

 

 第3章「 未知の惑星での冒険 2 」

 太陽系の地球惑星から数光年。緑星の話である。
 地球から開拓者達が、方々の10惑星へ向けて旅立ってから約11ヶ月が過ぎ去っていた。
 約70名の人類の開拓者達は、簡易の葬儀をしていた。雪が降りしきる中で。気温は氷点下20℃程である。
 仲間の若い女性1人が探検に出て行って、突然の気候変動で吹雪に逢い雪の中で凍死したのだ。この女性が晴天の青空の涼しい日に「少し電気バイクでドライブしてくる」と言って出掛けた数時間後に、ベースキャンプ地を取り巻く環境が一変して、雪が降り始めやがて猛吹雪に成っていった。
 そこで、ベースキャンプ地と彼女との連絡が途絶えた。

 無線の探知機で、彼女の装備している装置とバイクを、宇宙空間に残してきた数基の高性能人工衛星のGPS機能に似た機能で、彼女の行方を10日間探して漸く見付けだした彼女の身体は曇った氷の中にあった。
 辺りは一面の雪の結晶や氷で覆われていた。その原因は、この惑星独特の気候による現象だ。秋の様な気候からこの惑星の大陸の不時着位置から冬に成るのに、急激な気温変化を起こす。それが惑星の公転の軌跡が恒星に対して偏った楕円を描くからの様であった。
 その偏りは、短軸半径はほぼ両側等しいのに対し、長軸の半径がそれぞれ大きく異なり、その極限半径の比が1:2となる為であった。詰まり、惑星の描く楕円の中の恒星が、楕円の長軸を3等分した時に、その内部の2点の内の1点の位置にあるらしかった。
 その理由は、この恒星系を取り巻き公転する惑星が大小数十惑星存在し、それが平面的では無く、まるで内部に恒星を置いた立体的フラーレンの様な形状をしているからだと、科学者が推測していた。

 皆が、寒さの為にこの惑星で狩りをして得た獣の羽毛で造った毛皮を着て寒さを凌いでいる。氷の中に閉ざされている彼女の亡骸を、氷を立方体に切り取ってベースキャンプ地まで運んできた。皆が泣いているが、その涙や鼻水でさえ、瞬間的に凍り付いている。
 彼女の亡骸を氷を溶かして取り出そうという意見が出たが、その手段は彼女の身体を傷付けてしまうので止めようとの意見で纏まった。
 上空に残してきた数基の人工衛星で、大陸の気候の変動を調べてみたが、何処も低温で氷点下を切っている。改めて動植物を調べてみると、全ての種が気候変動に強い遺伝子を持っていた。
 動物は毛が濃く生え変わる性質。植物は表皮が厚く丈夫である。

 彼女のその亡骸をベースキャンプ地の氷点下以下のシェルターに残し、全員で宇宙船の中に避難し、寒さを凌ぎながら暮らした。

 数ヶ月後、漸く雪解けの季節が来て、恒星が輝きを増した。大地に雪解けで出来た大河がそこかしこに出来ていた。
 動物達の姿が見られ、約70人の船員達は、その動物達を動物用罠で捕獲し、痩せ細った体に栄養価を流し込んでいた。
 シェルターには透明に成った氷に、美しい薄着の洋服を着て凍りついた彼女の姿があった。皆が涙して、長い冬を生き残った実感を噛み締めていた。

 緑星はこれからまた、長い緑に包まれた肥沃な大地の季節が始まろうとしていた。

 美宙星での話である。
 一日の行動時間が限られているこの惑星の昼間は約6.5時間。その間に、30人程の開拓者達は狩りや、惑星探査を済ませなければ成らなかった。
 予てからこの惑星の大陸の中で一番温暖な土地を探していたが、それが解析出来た。大陸は東西には幅が狭く短く、南北には長い。地球上で赤道に当たる美宙星の回転軸から最も離れた最長半径の円を通る大陸部分は存在しない。
 それでも、理論的に恒星に対して惑星の自転軸がほぼ平行か平行に近い回転軸を取らないと物理的に釣り合いを取る事が出来ないとの観点から、やはりこの惑星での赤道により近い土地に移住する事を試みる事にした。

 探検隊は5人に決めた。
 もし、全員で探検に出掛けたら、宇宙船を放置してしまう事に成るし、ベースキャンプ地は慣れ親しんだ土地だ。極寒だが、食料も十分に存在していて暖も取れ、生活に不自由はしていない。それに、地球との定期交信をしなければ成らない。
 5人の探検隊は最新鋭の電気バイク5台に乗って、夜明けと共に出発した。荷物は、100日分の動物の肉の食料、それに簡易テント、医療品、銃器、その他最低限最大限の物資を電気バイクに積んで出掛けて行った。

 5人は、大陸の簡易の地図を人工衛星で作成して、それぞれ縦に並び、雪の上を時速10キロメートルの速度で走行した。電気バイクの恒星で蓄電した電気が切れると、テントを張って、寝袋で寒さを凌いだ。
 動物らしきものが居ると、銃器で狩りをして食べてみたりした。味はどうあれ、それで命を繋いだ。

 200キロメートルくらいを1ヶ月間かけて走行すると地面のある土地に出て来た。途中、山あり谷あり、川ありであったが、そこは地図を頼りに上手く乗り越えた。
 そこからは走行速度も上げて、1日に50キロメートル程を走破して、目印の色のついた布を各所に取り付けて帰り道の目印とした。
 只、走行するだけでは無く、地形やら地質なり、土地の気候や性質を調査しながらの移住する為の最善の調査である。すんなりと、1日に長い距離を走れば良いという訳では無い。
 土地毎に、小型調査基を残してきて、逐次、ベースキャンプに人工衛星経由で気候の情報がいく様にした。

 そこから更に200キロメートルくらい北上すると、森林と草原が砂漠の中のオアシスの様に点在する土地に出た。サバンナにも似ていた。
 ここで1人の探検員が力尽きて、病魔に倒れた。一同には医師が帯同していたので、ここにテントを張って、彼の病気が治るまで探検を中断する事にした。
 彼の病気は重く、だが治らない病気では無かった。恒星の光が昼にはギラついてテントを照らしていたが、風が乾燥していて心地よい。

 このオアシスは近くに湖があり、少し塩分を含んでいた。突然に豪雨が降る事もしばしばで、何とか湖から得られる蛋白源や蒸留水、そして必死の看病の御蔭で彼は一命を取り留めた。
 探検隊は皆で、今回の探検活動は此処までだと合意し、帰路につく事を決めた。
 ここでもやはり夜空は美しく、暗闇の宙に星が密集しているのを見上げると、時々、流れ星も見られた。地球からの夜空と少し違う。
 5人はもの心細さ、悲しさを感じて、日が明けたら25人の待つベースキャンプに戻る事にした
美宙星には大陸が大小5大陸存在し、その全貌は未だ明らかに成って居なかった。後に辿り着く信仰心のある後発人類達を迎えようとしていた。