未知の宇宙への方舟

 序章「 地球環境 」

 時代は西暦2100年に差しかかろうとしている。
 ハイテク産業が開花して、100年以上が経っているが、地球上は死の惑星と化していた。
 地球の平均気温は、極点で夏に30℃を超し、冬でも氷点下を下回るのは稀であった。赤道直下では夏には70℃を超す猛暑で、人類は西暦2060年頃から赤道から遠ざかる様に、難民として寒冷地方に移住していった。
しかし、2100年にはもう、地球上に寒冷地方は無く、辛うじて海上が陸地より温度が高いが、海水温度が適温の所に熱帯魚や水温上昇に強い魚達が住んでいるのみで、数は激減していた。
 海は池の様に海水が澱んでいて、魚達も活気が良く泳ぐものは居なく、寄生虫や病魔に侵された身体に短い死期を待つように、ひっそりと暮らしていた。

 人類の人口密度は北ヨーロッパ地方、北アメリカ大陸の最北、南極大陸に過密し、その人口自体も200億人が存在しているにも関わらず、皆、精神と身体のどこかに疾患を患っていた。
 食料は工場やプラントで製造されていたが、どれも化学物質で汚染されるので、ペースト状の軟らかい状態にしてから、毒素抜きをしてから住民に配給していた。

 赤道を取り巻く大陸付近には、シェルター状の住民居住地区が散在していて、さながら過去に存在していたエスキモーの様に、昼は太陽光を遮る様に厚着をして短時間外気に触れる為に氷水を手に外出し、熱帯地方でも生きていられる獲物を動物、植物問わずに採取してきては食料としていた。
 室内を冷却する為に、空調機は各シェルターに設置されていたが、室内を涼しい環境にするためにはどうしても大気に外気として熱風を放射せざるを得ず、それが更に地球温暖化を加速させていた。

 夜は、人類の活動時間であった。日が暮れて熱帯夜が訪れると、人類は雲の少ない星空を見上げて、神々に祈りを捧げて仕事に出掛けた。昼と夜の寒暖差は数十℃で、まだ夜の時間帯は人類には快適な時間であった。何しろ、直射日光による紫外線やら赤外線、その他の人体に有害に成り得る波長が届かずに、快適に外を歩けるのだ。
 電力所は昼間に溜めた太陽光発電の電力を蓄えていて、工業、プラント施設にその電力を供給する。シェルターは平面エスカレーターの通路で繋がっていて、仕事に向かう人達で溢れかえってくる。

 シェルターは高層ビルと言うより、地下にダンジョンを張り巡らされた様に成っていて、地下マンション群と成り、そこにさながら蟻の様に自宅を造り、人々は暮らしている。
 赤道に近い、又はかつての温暖化地方の子供達の遊び場は、地下運動場だった。子供達は、皆、身体が細く未発達児だ。何故なら、適度な直射日光を浴びる事が無く、骨が未発達で栄養も偏っているからだ。彼等のスーパースターは運動選手だが、プロテインで作り上げた身体で子供達に見せる、地下プロサッカーやベースボールは、何処か窮屈であった。
 子供達は学業に専念した。学校は存在し、地球環境学、医学、宇宙工学、生物学等を重に学び、地球環境を回復する術を開発すべく先生達の講義を聞きディスカッションしていた。また、宇宙開発を如何に進めて、人類が宇宙への旅をする足掛かりとなる方法を模索していた。

 科学の異常発達により、人類1人1人の行動は監視された。誰が、何時、何処で、何をしているか、常に高度に発展したコンピューターテクノロジーやAIが常に把握し、法整備により違反を犯した者は直ぐに観付けられ、罰せられた。
 とにかく、人間の心の落ち着く場所は無く、皆の心がどんよりと雲っている。

 一方で、極点付近の、まだ住み心地の良い土地に住んでいる者達は、富裕層であった。後が無い地球の未来、地球の最期を待つ様に、日々、遊んで暮らしていた。
 入国管理が厳しく、身体の何処かに異常をきたしている個人の入国を認めず、国境や沿岸を監視した。海の中は未だ涼しい。潜水艦旅行を楽しみ、移動手段や防衛手段も潜水艦が主であった。

 空は死の世界である。直射日光を浴びると、有害な太陽線で飛行機は直ぐに劣化し、人体にも悪影響を及ぼす空間である。大気は、地表付近、上空共に劣悪で、有害物質を多く含み、とても肺に吸い込めるものでは無い。
 鳥の姿がなかなか見当たらない。鳥の多くは絶滅していて、生きている鳥の多くは人類のペットとして鳥籠で飼われていて、その美しい鳴き声を愛でた。犬や猫は疎まれた。とにかく、手間が掛かりとてもではなく飼えず、寧ろ、人類の蛋白源として珍重された。

 かつて地球で繁栄を謳歌した動物、植物達は種を減らし、博物館でその剥製や、模型を見る事が出来るのみであった。
 地球は最期の真夏を謳歌していた。

 

 第1章「 地球での施策 」

 ミレニアムを通り越し、2000年代に時代が入ると、人類は急速に科学技術を発達させてきた。
 その発展の速度は、各分野で正の二次関数的に成って行き、各大学や企業では、個人個人がそれぞれ研究テーマを持ち、地球上のあらゆる分野での研究テーマ解明と、人類の生活を豊かにする技術への還元を行ってきた。
 その結果、学問が細分化専門家していき、各分野での研究成果の繋がりを見失い、学者同士の競争意識が高まり、各国はそれを秘密裏にし、如何に自国の経済発展の起爆剤にしようと考えて、パテント出願と成立の数は大幅に増えた。

 学者達は、人類に不可能は無いと思うようになり、地球の環境などは考えずに急速に研究開発を進めた。
 一方で、地球惑星は悲鳴を上げていた。自浄作用を大きく上回る環境破壊が行われ出したのだ。
 先ずは陸地であり大気だ。森林が伐採され続け植林を怠った為に、地球規模での大気汚染が起こった。各国の工業地帯で排出された、又は各個人での趣向で排出された大気汚染物質が、地球の上空の気流に乗り人類に有害な大気の毒素が人体を少しずつ蝕んでいった。
 大気は温暖化ガスで満たされ、乾燥して息苦しい。喉を乾かす大気の変化は、人々にマスクの着用を促し、人類は目より下の鼻から下の顔を隠して生活をしていた。
 陸地では、人類が何気なく捨てて行ったゴミが、土に戻らず、プラスチックゴミ、大型家電製品や自動車の廃棄ゴミとして土に埋められた。
 それは海洋へも広がって行った。プラスチックゴミは海水に溶けず、海流に乗り美しい南国の島々の浜辺に打ち上げられて、印字された世界各国の言語から、その言語を使用している国々への回収を催促して、軋轢を生んだ。

 地球の人類生活で一番の問題は、突如起こる自然災害である。地球温暖化による、様々な現象で、大気は不安定になり、海洋の水は人類の住む海沿いの平野の陸地を高潮で脅かし、頻繁に起こる地殻変動による地震は、増加した人類の脅威であった。
 温暖化による気温の上昇は、次第に永久凍土を溶かして行き、赤道から遠い陸地にある寒冷地を住み心地の良い気候へと変えていった。
 温暖化対策が、いよいよ地球規模で切実に議論されてきだした時、学者達が色々な温暖化対策の施策を提案しては、試してみた。
 気温を下げる為に、オゾン層を回復し、二酸化炭素他の地球温暖化ガスの削減実験、太陽光が地球へと届く事を調節する宇宙空間での反射板みたいな突拍子も無い意見まで出た。勿論、そんな施策は、各国の経済化より優先されるはずは無く、環境学者の警笛に一般に日常生活をしている民間の人達は気付きもしなかった。

 宇宙開発が進められていた、とは言っても、直径1光年はあると言われる太陽系を出るものでは無く、近くの水星、金星、火星、木星、土星くらいに留まり、その研究成果は、宇宙に水が存在するか、地球外微生物が存在するか、地球にそれらの惑星や小惑星の土を持ち帰って分析するといった類の、「亀と蟻さんの駆けっこ」程度のものであった。
 確かに、宇宙開発の入門編はその時点からであったが、遠く宇宙の彼方に想いを馳せる学者も多々いた。
 学者達の議論は、もっぱら実測観測データから得られる情報から読み取れる現実であって、何故、宇宙がその様な形に成ったのか、現在の造りをしているのか、物理的に成り立っていられるのか、宝石の様な色をしていられるのかを推測するのみである。
 だから、太陽系宇宙学者はもっぱら実測で物事を考えて太陽系環境を語り、大型天体望遠鏡で遠い星座や宇宙の彼方を観察している宇宙天文学者は宇宙のロマンを語った。

 そんな中で、光の性質、素粒子、未だ未知の存在である物を追い求めて、地球上で実験施設が盛んに設立された。
 これらの設備は、まるで上空から見るとナスカの地上絵の様で、宙に魅せられた学者達の未知の物への憧れの象徴として、科学者のシンボルでもあった。
 各国は、地球環境の悪化により、薄々と地球の最期を悟り始め、宇宙に如何に進出して行くかの足掛かりとしての基礎研究を繰り返した。
 最初は無人観測艇であったスターシップも、いよいよ数人の宇宙飛行士を乗せて、太陽系の他の惑星へと向わせるミッションを立てだした。
 それらの任務に当たった宇宙飛行士の殆どが、地球に亡骸の乗組員となって帰還した。人類は彼らを英雄と称えて葬った。それでも、その任務に当たる候補者は絶えなかった。彼等は、金星、火星を真近で見て、感動の涙を流して宇宙船の中で泣き抱き合って喜んだ。
 宇宙ゴミが地球の周りを取り巻き、地球に帰還する頃には、重力が無い為、身体が衰弱し、病に冒されて、それでも尚、地球の大地を再び踏むために、地球からの遠隔操作の宇宙船の中で、仲間が息絶えて死んでいくのを見守り、宇宙船の中で棺に死体を納めた。

 これが2000年代中頃の話であった。

 

 第2章「 人類の進化と退化 」

 人間の脳は確実に進化していた。
 2050年くらいからは、人間の死因の中で多くを占める病気によるもの。不慮の事故によるもの。人的被害によるもの。それらが極端に少なく成っていった。
 その理由は、科学全体の進歩であった。

 病気に関しては医学の発展により、癌や脳卒中、心不全等の病気による死が減った。突然死や老衰による死亡事例が多くを占めた。人間はアンチエイジングに成功して、歳をとっても若々しい体力を維持出来る事に成功していた。
 又、人工インプラント、人工的人体の一部の生成と移植、万能細胞・自細胞から遺伝子操作で造り出される生物学的インプラントの人体への移植技術は高度に発展し、隆盛を極め、人は少々の病魔や事故では死ぬ事が出来なくなる。
 交通機関は、過去からの数多の事故事例を分析予測し、鉄道、自動車、飛行機に至るまで、自動運転技術、事故回避予測技術、交通網と道路の整備、位置情報技術と衝突回避システムの構築により、究極まで人的ミスによる事故を減らす事ができるようになる。

 人間は恐ろしい事に、未来を予測して行動出来る様になっていた。予知では無く、状況判断による予測である。遺伝子解明技術により不適切遺伝子は排除修正され、又は多く行われる様になった健康診断での大病の未然予防、そして理想の我が子を造ろうとするが為に遺伝子を操作し、産まれてくる赤ん坊が既に高知能の科学者になるのが向いているのか、スポーツ選手になるのが向いているのか等、子供の未来を考えて人工授精や遺伝子操作が行われた。そんな子供達を、一般の生殖方法で造られた子供達と区別して、超人類と人々は呼んだ。

 しかし、それでも人より多少、頭が良い、体力に優れている、運動能力に優れている等の兆候しか見当たらず、超能力といった類の能力は発揮できず、人類の未知の宇宙への旅立ちへの先導役とは成り得なかった。

 この頃に隆盛を極めた信仰があった。大宇宙∞が無限か無限でないかの議論上で、各宗教の最高責任者が一同に集結し、『 神 』との因果関係を議論しだした。
 その根拠は、地球環境の悪化と反対の科学技術の隆盛がもたらした、矛盾である。矛盾は、『 信仰 』と『 宗教 』にもあった。
 『 信仰 』は得てして自然界に存在する物、自然現象を『 神 』の行っている事と理解する思想的考え方であり、一方で『 宗教 』は、特定の人物が興した世の中の万物の思考、ある特定の人物の偉業を『 神 』と呼び、尊敬を込めてその人物を崇拝するものであった。

 世の中の半分は『 信仰 』で半分は『 宗教 』で、前者は自然現象をありのままに受け止める思想で、後者は尊敬されている人物に縋る思想であった。
 これは大激論に発展した。
 科学者達は大宇宙∞の果てし無さにより視野が広く、大宇宙∞の何処かに神が存在していると考える様に成った。一般人は目先の事しか頭に無く、地球的考え方からある種の偉業を達成した人を持ち上げ奉る方法で、『 歴史上の人物 』を『 神 』と崇める事をした。
 科学者達は高度に発展した大宇宙∞感により、100%存在すると予測している大宇宙∞の何処かに、もっと文明的に優れた知的民族が存在し、『 宗教 』を馬鹿げている、若しくは『 宗教 』を信じる科学者が皆無となり、何時も科学者と宗教家達の非難の応酬であった。

 この時代には、独自の宇宙感を持つ『 信仰 』の派閥が出来て、それぞれの科学的根拠を元に、独自の研究を密かに行っていた。未知の物を発見するだけでは無く、『 神 』と呼べる大宇宙∞の産物。
 それは、何らかの形を成しているのか、それとも大宇宙∞の何処かに隠れ潜んでいるのかといった考えで、観測を行っていた。
 人類の宇宙開発技術は未だ拙く、とても見られたものでは無い。しかし、遠くの太古の宇宙の姿は観測出来ている。太古と言っても、限られた太古である。その先の空間に、何が潜んでいて、何が存在しているのかを、科学者達は空想を膨らませ、独自の理論を立てては激論をしていた。
 ビッグバンはもう過去の産物であり、過去から未来に掛けての時間的概念が、少なくとも始まりが無い、終わりが無いものでなくては合点がいかないとの発想にまで達していた。

 『 宗教 』は、祖先の魂を祭るものとして、未だに行われていた。亡くなった祖先の魂を天界、若しくは天国に届けようとして、行われるものである。
 祖先は、家系や人類のルーツである。如何に進化を遂げて今現在の人類の形に成っているのかを、遺伝子的に解明を続けていた。
 『 宗教 』での『 神 』は人類の英雄であり、偉人であった。その考え方は、科学者達の考えに反するものであったが、そこは人間のこと、簡単に割り切れるものでは無い。

 科学と伝統の対立はしばしば起こった。
 科学は未来を見据えて、世の中の全ての物を改善しより良い物にしようとする。しかし、伝統は昔の形をそのまま変化させないでおこうという保守的なものだ。
 伝統を重んじる者は、世の中の進歩について行けずに、技術的に取り残された。科学を重んじる者は、常に最先端の情報を得る事が出来て、伝統との格差や感覚の違いに戸惑い、伝統的な物事を批判し、遅れを出さない様に苦労した。

 とにかく、世の中が複雑化し、貨幣の価値も、貯金の意味も、財産の意義も、老後の生活も、何もかもが意義が無くなり、数字だけのやり取りが行われ、酷い国ではテクノロジーに頼る余り、働く意欲の無い人種で溢れかえった。
 お金の価値など無意味に成り、より個人の能力、人物像、魅力、能力が重視され、それらで差別化が行われた。
 だからこそ、大宇宙∞の追求が積極的に行われる国での『 信仰 』と、働く意欲が低下した国の『 信仰 』では派閥が異なり、互いに罵りながら、御互いに宇宙感を育んでいった。

 世界は、人種の混ざり合った複雑な国々で成り立ち、混沌としているにも関わらず、法律とテクノロジーに縛られた、窮屈な時代へと変革をしていった。

 

 第3章「 太陽系外の観測 」

 2050年代を超えた地球は、科学技術の粋を集めて、宇宙観測を急速に進めていた。
 その結果、地球外に『水』も存在し、微生物も存在する事が、実証されていた。その起源は地球によるものなのか、他の惑星や太陽系外によるものなのかは、未知ではあったが。
 太陽系のそこかしこに水の存在と、水の痕跡と、微生物の存在が実証された理由は、地球からの太陽系惑星観測無人機によるもので、それらが持ち帰ってきた「惑星や衛星の土」に、水(氷)の混合物と、地球に存在しない微生物が確認されたからである。
 勿論、地球上に存在しながら、人類に発見されていない微生物は山ほど存在しているので、無人機が持ち帰ってきたものが果たして、地球外のものなのか、地球由来のものなのかの検証は遺伝子の分析などから様々成された。
 結局、それらの微生物は新種であったことから、地球外の生命であるが、外来生物なのか地球由来の生物なのかの結論は先送りされた。

 また、太陽系外の観測も、間接的に行われていた。
 地球の様に、生命が存在し得る惑星は多々、発見されたとのニュースや論文が次々に発表されて、世間を賑わう事を起こした。
 それらの惑星に知的生物が住んでいるか居ないかは、議題に上がっていたが、天体望遠鏡の発達により、一部の太陽系外惑星に衛星か人工衛星の様なものが観測され、人類全体に歓喜と共に、不安をもたらした。
 地球の各国は協議して、地球を取り巻く人工衛星に防衛機能を持たせる事を提案し、実現していった。
 地球自体は太陽の周りを公転しているので、宇宙空間に直接防衛機能を持たせる事は不可能であったので、地球を公転する人工衛星にあらゆる手段で外敵から身を守る防衛手段を講じた。
 しかし、もし太陽系外生命体が来訪しても、それらと戦うかは各国の議論の的で、友好的ならば交友を結び、侵略的ならば戦うという結論を共有していた。
 だが、先に既に地球まで太陽系外生命体が、スターシップにて来訪したならば、地球より明らかに科学技術が高度に発展している太陽系外生命体なので、戦争をしても負けるだろうとの意見が市民の間でも一般的であった。
 それらは、1900年代から2000年代初頭に流行った宇宙戦争物の映画でも、大抵は地球まで辿り着いた太陽系外知的生命のスターシップに、地球は蹂躙されることからも理解されていた。

 一方で、太陽系外のもっと遠い銀河系以外の銀河の観測もしきりに行われた。余りにも美しい形をした銀河もあれば、不思議な形をした銀河も存在している。
 それらの形成から消滅に至る過程も研究の対象となり、盛んに観測的データから生命の息吹と『 神 』の技巧による自然的現象を理解しようと試みた。
 電子顕微鏡と同じで、天体観測の為の望遠鏡にも焦点と視覚の限界があるので、細部までは判らなかったが、類推の類は様々に成された。
 恒星の性質、惑星と大気と水、有色ガスのかかった範囲。あらゆる角度から研究が成され、人類は頂上の見えない山の頂を1歩1歩、環境破壊という重い荷物を背負って登って行こうとしていた。

 2050年頃には、宇宙工学の学者が爆発的に増えた。それは、工業技術が高度に発達した事により、工業製品、食物、日用品を半自動化で作れる様になり、またAIによりアナログでローテクな仕事を人間がする必要が無くなり、人手が余ってきた事にもよる。
 自動車は、ほぼ全自動で動くし、交通網も綺麗に再配備された街の空間は、未来都市のようだ。一方で、森林を増やす努力も行われていた。
 陸地は限られているので、植林はそこで行われた。温室効果ガスの削減の研究もなされて、それらの削減や減少に人類は努めた。
 要するに、技術が高止まりして、地球での生活に人類が事欠かなくなったのだ。

 だが、自然災害はそれを赦さなかった。
 北方より来る突然の寒気、熱帯地方の異常気象、大型台風やハリケーンの被害、気流の変化、地震による甚大な被害等、主に海上で発生する異常気象に、人類は成す術も無かった。
 人類は、予測出来ないそれらの災害の予測をし、自然に戦いを挑んだ。地球環境を人類のコントロール下に置こうとした結果。
 人類は、『 神 』が作り出す自然現象に挑んで行った。

 地球の命運はこの時に、『 神 』と袂を分かつ事と成った。

 この後の2120年まで、人類は地球の環境破壊による自然界の猛威と、『 神 』の下した『 人類への裁定 』により、衰退をしていく事と成る。

 それが2060年代以降の話に繋がって行く。

 『 神 』は大宇宙∞の隅々まで見渡していて、その事象を観察。もしくは創造されている。
 『 神 』の人類への『 裁定 』は、『 奈落 』への追放であったのだ。一部の善良な人々を除いた。
 彼等は、その運命を甘んじて受け、宇宙への冒険の旅へと、散り散りに旅立って行く事となる。
 彼等は、超人類の末裔であり、灼熱の『 奈落 』と化したもう戻ることの無い地球から、宇宙空間へと旅をしに出掛けて行った旅人となる。

 2060年以降の話は、彼等の奮闘の話であり、2120年に果たして人類は宇宙空間の旅へとどの様な手段で行うかの、多様な手探りの物語となる。

 第4章「 地球環境の衰退と人類の息吹 」

 2060年頃の話である。
 人類は、人工授精で超人類を創り上げる研究をしてきた。2000年代の隆盛を極めた遺伝子操作技術は、食物や穀物から始まり、やがて人間に行っても許される様に各国で法改正されるに至っていた。
 各国は優秀な科学者、スポーツ選手、政治家、軍人を造り出す為に、遺伝子操作技術の手法を取り入れていた。
 世界は調和の方向に向っていた時代から、資源の確保、国土の安全、国民の高等教育、スポーツの促進の為に、あらゆる手段を尽くして超人を作り出そうとしていた。

 ある時、『 神 』の啓示を受けた者が居た。
 それは、偉大な科学者、スポーツ選手、政治家、実業家の子孫では無く、紀元前から紀元後の古くから続く戦人の家系で、その子孫は世界各国に混血として存在している子孫の家系の末裔であった。
 『 神 』は、その0歳児の男の赤子の脳に語りかけてきた。

「 運命の子よ。あなたは神である我の息子となる者である。あなたは成長するにつれ、過去の記憶を徐々に取り戻すでしょう。あなたの人生の先には試練が待ち構えています。その運命に従いなさい 」

 赤子は、閉じていた瞼をゆっくりと開くと、「 オギャー 」と、鳴き声を上げた。母親は小さなベッドに寝かされていたその子を胸に抱きかかえて、ゆっくりと揺り籠の様に揺らしあやした。

 母親と父親は、遺伝子操作で造られたその子が生まれる前に、男の子と判っていたので、産まれてくるその男の子の名前を、三日三晩考え抜いた上で、「 光と影の児 」と言う意味を持つその国の言葉の名前を付けた。
 かれの名前は、『 ライトシェード 』と名付けられたのだ。この名前の由来は、強い日の光の様に輝いて、身体の皮膚の中に濃い人格を持つ様な男に成って欲しいというものだ。
 その子は超人類の1人で、偶然にも、2060年4月8日の13:57分09秒に、母親の胎内から出てきた。
 彼は5歳で、近所の大学の校舎で行われている授業に近所の知り合いの女子大生に連れられて、周りの大学生に可愛がられながら、自らは教授の話す授業の内容を丸暗記し、応用も考えながら吸収していった。
 ライトシェードは昼は大学で学生達に、子供扱いされながらも授業で学生達に頭を撫でられながらも、教授の言葉を一言も聞き逃す事が無く大学を遊び場としていた。
 夜は、自宅に帰り、両親が彼が何処かの公園か運動場で遊んできたのかと思い、夕飯を共にしていると、彼はニュースで世界情勢が流されているのを聞き耳を立てて聞いていた。
 そして、寝る前になり、小学校から中学校、高校の参考書を手に取り、基礎を学んで行った。

 彼は、2065年の5歳時に、一人物思いに耽って夜空を見上げて考えていた。
 このまま、地球環境が科学発展で冒されていったら、何れ地球は人類の住めない環境になり、宇宙空間への旅に出て、第2の地球を探し移住しなければ成らなくなる。
 これには、自分1人の力だけでは成し遂げられない。自分の考えに共感してくれる頭の良い仲間がいる。それも、発想の転換が出来る大変に頭の良い仲間でなくてはだめだ。
 『 神 』が彼にそう考えさせている。この時には、彼は自分が天才で、自分自身の思い付きでこの事を考えているのだと、自惚れていた。

 今の地球環境は、人間が科学技術の粋を集めてコントロールしている様に見えているが、自然は予測不可能だ。
 北極、南極、山の頂には、氷や雪が無くなり、歴史的に見て地球は熱帯期に入っている。
 歴史で習った恐竜より前の時代の「何とか期」という時代には大陸移動説によると、陸地は1塊の大陸であり、その陸地はある程度熱帯であり、北極点、南極点に陸地があったかも、永久凍土があったかも判らない。
 だから、その時代には膨大な熱量を持つ現在より巨大な太陽からの宇宙線に地球は晒されていて、地球自体が熱帯期であった可能性もある。

 しかし、現在の熱帯期はそれとは明らかに異なる。
 この熱帯期は、人類が環境破壊により齎した気候変動であると考えていた。このまま、地球が熱帯化していくと、地表に氷がなくなり、氷と水と大気でバランスを取っていた地球の気候が激変してしまう。
 そして、気温が上昇した地球は、地表付近では大気が50℃をゆうに超し、気体分子の運動が活発になり、空気の流れが速くなり、風の強弱、台風、ハリケーンの発生が頻繁に起こる。勿論、竜巻も。
 そして、気体分子の運動が活発に成って、上昇気流が激しく成ると、その勢いで大気成分と一緒に、水分子も宇宙空間に失われる。
 2020年代に起こった、永久凍土の溶け出しによる陸地の浸食で、陸地面積が減って行った出来事の逆の現象が起こりかねない。
 水が地球上から減ってしまう可能性がある。

 ライトシェードはそう考えて、この惑星はもう惑星の末期状態に差し掛かろうとしているのだと悟っていた。
 だからこそ、頭の良い仲間を見付けて、宇宙空間への旅立ちをする必要がある。人類の存続の為に。
 その為には、あらゆる分野で秀でた仲間を集める必要がある。1日24時間の中では、1人で出来る事は限られている。だから、同じ志を持つ仲間を集めて、宇宙空間へと光速航行を超える速度で人類の住める惑星に自分が生きている内に辿り着かなければならない。
 1隻の宇宙船だけではだめだろう。人類の住める太陽系外の数光年離れた近くの惑星を沢山探し、それらに何十隻の宇宙船を用意して、バラバラに向う必要がある。そうして、その惑星に着いたら、別の惑星に向った仲間達と連絡を取り、住める惑星か否かを判断する。
 そして、人類の生き残りを図るしかないのだ。

 彼は、5歳の成長期の子にも関わらず、寝る間も惜しんでその方法を思案していた。2065年頃の話しであった。

 第5章「 地球環境の小さな破壊の蓄積 」

 神の子としての神託を受けた者が産まれてから10年が経っていた。
 地球の総人口は140億人を超した。これは、この年の60年前の人口の2倍近くに及んでいた。
 人類は、科学技術の発展を加速させ、地球環境を科学技術で改善しようと試みている現状であり、自然界の治癒能力は失われ、街も海も川も陸地も山も、散々に人で溢れかえり、汚染が自然界の洗浄能力を上回ったのだ。

 その主たる原因は人間にあった。
 人間は60年前の2倍の人口になっていた為、2020年頃の陸地の都市面積も大幅に拡大し、又、自然界の森林も伐採して田畑も都市化していった結果、地球の陸地に占める住宅の数が大幅に増えていた。
 この時代には、後進国なるものが存在せず、科学技術から医療技術まで、世界各国に浸透していて、どの国も先端技術を狙える人材を抱える様に成っていた。ただ、経済の方はやはり人口の多い大国の方が優位に立ち、経済不均衡を抱えていたが。

 地球環境が麻痺したせいで、世界各国が独自の自国優先論を主張しだしていた。
 一方で、国境なるものはほぼ無いに等しい状況である。何処にでも地球上なら移動出来るし、個人的な付き合い、民間の交流で、多民族同士が交流していた為、各国の文化は崩壊していた。
 独自の文化を過去に持っていた国々は、その模倣を行い、要するに過去のその国らしさを醸し出した、見せ掛けの文化を出して観光客を誘致している。そして、過去に存在していたであろうその国独特の文化の真似事を行い、観光客に披露していた。

 日本国などのアジア諸国は、田舎まで外国人が入り込み、日本らしさ、アジア諸国らしさを要求された為に、過去の遺跡、日本風景、アジア諸国の文化等は、観光客を喜ばせる為に演出された自然のものではなくなっていた。
 それは、地球最後の楽園であった、アジア諸国も同じであり、どこの観光地やリゾートに行っても、全てが観光客誘致の演出の元、経済を活性化させる為に行われていたものであった。

 ライトシェードの話である。彼は利発な15歳の青年に成っていた。この歳で彼は大学に在籍していた。
 専攻自体は流行の宇宙科学であったが、大学の極少数の仲間との地球の環境を考えるサークル活動に真面目に取り組んでいた。しかし、自分自身の事は一切として友人にも打ち明ける事無く、自分自身の独自の宇宙科学理論を構築する準備をしている。
 彼は恋をしていた。同じ大学の同級生では無く、彼を幼い時に大学の講義に連れて行ってくれていた元女子大生の30歳手前の女性で、現在の彼女は社会人として厳しい仕事環境で働いていた。
 彼女は同じ国の中の、少し離れた地方に就職し、科学者の道を歩んでいた。当然の様に、彼女には恋人らしき男性がいたが未婚であった。
 ライトシェードが彼女を慕って偶に彼女に逢いに行くと、恋人らしき男性は優しく彼に接してくれた。恋人らしき男性は既婚者であったのだ。

 ライトシェードの純朴な心は、嫉妬と苦悩に苛まれていた。複雑化した地球上では、極ありふれた出来事であったが、ライトシェードにしたら初恋の女性であり、10年来の恋である。
 それが、ライトシェード自身の立場を自覚させて、もどかしいものであった。
 彼女は目先のものに目が行き、彼はずっと先の事を見据えていたから、それが複雑な彼の成長期での人格形成に影響を及ぼした。

 ライトシェードが彼女の街に彼女に逢いに行き、名前を呼ぶと、彼女は彼の好意を知っていて優しく対応した。しかし、彼女に彼の本当の気持ちは届いて居なかった。
 少しの年齢の違い、環境、心のすれ違いで、彼等には溝があり、彼女は現実に接する既婚の男性との微妙な関係を続けていた。例え、それが彼女の身に、何ら利益を齎さない事を彼女自身が知っていたとしても。
 彼女の名前は「ノーティスレース」という名前を、親から授かっていた。彼女なりの心遣いも勿論あり、彼を恋愛の対象と見てなかった事もあった。彼女は未だ、彼女の奥底にある想いに気付かないでいた。

 或る日、彼が彼女の街を訪れて行くとき、彼の大学の20歳の同級生の女の子が「私もその街を観光したいから」と言いノーティスレースのいる街について着た。彼女の名前は「ディーアラート」と言い、大学で偶々、食堂で偶然に席を隣にし、その後、何度か同じ講義を受けた時に、何時も彼の机の前で見掛けた事で、自然と運命的に話をする様に成った友人である。
 話していくにつれ、彼と彼女の接点は大学だけに留まらなかった。勉学、趣味、スポーツ、何を取っても熟練度が同じ程度で、波長が何故か合う女性であった。

 ディーアラートは端正な顔付きをしていたが、特に目立つ容姿では無く、周りの派手な学生の中では存在感が薄かった。ライトシェードは彼の付き合い仲間に彼女を入れる事をせず、だが、彼女には最大限の礼節と慈愛を持って接していた。彼女の方も、彼に特別に感情表現をする事無く、狭い女性友達の仲での付き合いで、稀にライトシェードと2人きりに成った時に、彼に優しい笑顔を向けている事に気付かなかった。

 ノーティスレースの街を訪れると、大学生の2人は彼女の自宅に招待された。社会人の彼女の部屋は彼女のセンスを感じさせるレイアウトで、2人を感嘆させた。
 そこに写真ボードがあり、ディーアラートがその中の写真に5歳時のライトシェードの写真が有るのに気付き、立ち止まった。
 彼女はそこで、脳裏にある映像が流れた。それは、何処か他の惑星であるかの様に眩しい光の中での沢山の人の中で、自分の友人達に囲まれている自分自身であった。
 ディーアラートが暫く立ち止まってその写真を眺めていると、ノーティスレースが、コーヒーカップを持ってきてくれ、彼女に手渡した。すると、今度は、地球では見る事が出来ない様な、満天の星空の夜空が見えた。

 「こっちにきて話しましょう」
ノーティスレースが彼女にそう声を掛けると、彼女達はライトシェードの待つテラスへと行き、木の円机を囲んで座り、日差しの高い太陽の下、甘いケーキを口に運びながら談笑を続けた。

 第6章「 移民の大移動とシェルター生活 」

 移民は何時の時代にも行われている。
 時に難民であったり、職業を得る為であったり、新大陸を求めた時代もあった。2075年付近の移民は、環境に起因するものであった。
 急速に地球温暖化が進み始めた為である。これについては数々の対策が成されていた。科学的な側面から、動物学的側面から、気象的側面から、太陽系の創りの側面から。ありとあらゆる対策が成された。
 しかし、大陸や陸地の面積は限られている。人口増加と、森林の減少から、それらの地球温暖化対策が追い付かなく成ってきた。地球上の大気を浄化しているものは本来、森林である。それが失われて来て初めて、人類は自分達の犯した過ちに気付き始めたのであった。

 赤道付近を気温の高温地帯の頂点として、地球全体が暑い。北と南の極点に向かって段々と気温は低く成っていくが、エルニーニョ現象、ラニーニャ現象、それに新たに多く加わった異常気象現象が世界各地の気候を変動させていった。
 とにかく暑い。地球全体の陸地面積と海洋面積の比は2020年頃には3:7であったのが、寒冷地方の永久凍土が全て融けて海洋に流れ込んでいた。そして、蒸し暑かったり、乾燥していたり、気候変動が激しくなり人々を苦しめた。
 人々は、建物の建築様式を変え、室内に太陽洸を成るべく通さない、又は彩光だけ通すガラス等を開発し、建物や家をシェルター化していった。
 外気はどうでも良いが、内気だけは涼しく保とうとして、自然環境の保護を放棄して行った結果である。

 それが、赤道付近から段々と極点に向かって広がって行き、やがてそれに耐えられなくなった各国の人民は、難民としてより寒冷地方に移住して行った。彼等は命の危機を悟り、自分の国を捨ててより北の国へ、又はより南の国へとそれぞれの極点へと放射状に散り散りに移住していった。
 それは、ユーラシア大陸やアメリカ大陸の北方の地方であったり、南極大陸であった。この時、特に南極大陸は重宝された。
 だが、異常気象は、大陸面積と海洋面積の比率さえも狂わせた。湖や池は無くなり、永久凍土から融けだした水が海に流れ込み、海抜の低い陸地を浸食して陸地面積を減らすはずであったのが、湿度が上昇して蒸し暑かったり、大雨や干ばつであったり、とにかく何故か陸地面積と海洋面積の比率が4:6くらいに成っている。
 これは科学者達が諸説を唱えて警笛を鳴らしているにも関わらず、陸地面積が増えて喜ぶ者も居たり様々であった。

 だから、海洋と陸地の地形も変化し、大陸棚、海洋の中の断層や活断層も滅茶苦茶に成り、海洋の黒潮の流れ等も最早、2020年とは有らぬ地域を流れていて原形を留めていなかった。
 島々は繋がり大きな島国となり陸地化し、海洋が干上がっている。海洋の水が何処かに飛んでしまっていたのが観測され始めた。
 難民は徒歩では無く高性能太陽洸ハイブリット電気自動車や鉄道や飛行機で押し寄せた。

 ライトシェードとその家族も大陸の北への移住を考えていた。太陽洸発電施設の付いたシェルターの家から、毎日通う大学校舎もシェルター校舎であり、そこでの環境サークルでの学生達の議論は盛んであった。
 環境サークルは多々あり、学生達は遊び半分では無く地球環境を議論していた。1人、また1人と学生の家族は、北の地方の大学へと編入し、学生の親達はそこでの仕事を求めた。

 ライトシェードは、或る日、地球環境学の教授の部屋を訪れた。その教授は地球環境学の世界的権威であり、優れた知性を持ち合わせた者である。
20歳のライトシェードは、教授に尋ねた。
「 先生。この惑星は、もうどうにも成らないのでしょうか? とても、145億人の人口を養えるとは思えません 」
 教授は彼の眼を見て、
「 1つだけ方法があるが、君にはそれが解るかい? 」
と、質問をし返してきた。
「 はい、解ります。人口増加を抑えて地球の環境を保つか、徐々に人口を減らし地球環境を元に戻す努力をしていけばよいのだと考えています 」
ライトシェードはそう答えた。
 教授は小さく頷いた。彼と教授は長い時間議論をしてから、ライトシェードは部屋を後にした。

 その夜。ライトシェードはディーアラートと、暗い夜空を見ながら、微かに見える星を2人で眺めていた。彼女は地元の企業に就職して、時折、こうして彼と夜にレストランで食事を共にしていた。
 レストランはシェルターだが、夜にはシャッターを解放してガラス窓張りの天井から星空を見る事が出来た。2人は宇宙について何時も語り合っていた。彼女は25歳に成っていた。
 ほど遠い都市で仕事に励むノーティスレースとは、2人とも連絡を取っている。彼女も独身を貫いているが、彼に会いに度々、地元に帰って来てはライトシェードとの会話を楽しんでいる。

 翌年、戦争が勃発した。
 大きな2国間で、海洋権の主権争いで意見が対立し、国境沿いでの小競り合いが、次第に戦火が他国間に広がって行った。
 世界各国で、地球環境への不満と、権益への執着が戦火を拡大させた。ライトシェードの属する国も戦火に加わって行った。
 それは北方から火種が始まり、次第に赤道付近まで広がって行った。
 戦争は直ぐに講和条約が結ばれたが、境界線が引かれ、南極は分割された。これが、新しい地球環境の悪化の原因と成って行く事になる。

 第7章「 技術競争による地球環境の更なる悪化 」

 戦争による人類の多国間に入った亀裂は大きかった。
 互いに技術競争を激化させ、他の国より先んじようとして、ありとあらゆる手段を講じた。国交はギクシャクし、他民族間での人種的嫌悪が起こり長引いた。
 その人種的嫌悪はやがて性的嫌悪に変わって行き、同民族でない好きでも無い民族の女性との性交を親が自分の息子達に教え込み、敵対している民族の女性を汚していった。
 根底に存在している、民族間差別や卑下を、性交で鬱憤を晴らして優越感を持つのが戦争の副産物である。

 多くの国は更に自国優先主義に傾倒して、軍事面、経済面、先端科学面、人種面で世界に抜けに出ようとして、他国間の技術交流は失われ、地球環境は置き去りにされた。
 大気は化学物質で汚染され、シェルターに暮らす人々は、外に長い時間出る事が出来ずに、窮屈な生活を強いられた。

 科学的国際会議は頻繁に行われて、環境破壊を何とかしようと試みられた。しかし、その結論を自国に持ち帰っても、自国の政府は環境より国益を優先させる方策を取った。

 ライトシェードが相談していた教授は懸命に世界に、地球環境の改善を訴え続けた。国際会議に頻繁に出席し、持論を丁寧に説明したが、各国は自国の力を付ける為に寧ろ自国の人口を増やす政策を取っていたので、一笑にふされた。
 これで、彼等の地球環境対策による地球環境の回復政策の議論は終った。
 彼は、それで宇宙への脱出の冒険の旅に出る事を決心した。

 2085年頃になった。
 ディアラートが30歳になっていた。彼女は宇宙開発系企業に就職して5年が経っていた。彼女の研究分野はスターシップで如何に、他の惑星に渡るかの基礎研究であった。
 今までの他惑星への有人宇宙船探査では、宇宙飛行士達は皆、無重力による人体の体力の低下、奇病である宇宙病の発症等により、地球に生存して帰ってきた者は誰一人として居なかった。
 その問題を解決する生物学、重力問題の物理学、如何に日光を浴びないで健康で居られるかの人体の医学等を多方面から学んで、基礎研究を重ねていた。

 ライトシェードは大学に残り、研究者として、独自の光速航行を超える基礎研究を考えていた。その為には、加速度に人体が耐えられる若しくは加速度を発生させない方法、宇宙ゴミ問題と障害物問題、移動体の衝突回避方法、そんな事を独りぼんやりと方法論を頭の中で纏めていた。
 それらを同時に達成出来なければ、地球から他惑星への生存移住は不可能だと感じていた。それで、彼は大学での研究者という道を選んだ。
 細部まで入り込んでも時間の無駄であるし、広範囲な考えをしないと時間が無い。名声を得る為では無い研究で、見返りは自分達の命と、未だ見た事のない生物が住める地球以外の惑星への移住と、権益の何も無い土地を手に入れ仲間と住む為の目的だ。

 この頃、流行っていたのが、現実逃避をするバーチャルゲームであった。このゲームは、人体の身体のありとあらゆる部位に端末を付け、視覚、聴覚、触覚、痛覚、快楽を得る事が出来るゲームで、現実世界で死ぬ事以外は何でも経験できた。
 恐竜と戦い食べられて痛みを感じたり、異性との性行、スポーツ(サッカー、ボクシング、モータースポーツ等)、宇宙旅行。非現実的世界を人間が疑似体験し、麻薬の様に人類の感覚を麻痺させて行った。
 このゲームのせいで、現実と非現実の区別の付かない若年層の若者が増加し、政府によってはこのゲームの未成年の仕様の禁止をする国もあった。
 このゲームを行った後の人間は夢遊病者の様に成り、犯罪に走る者も沢山いた。

 科学技術が、現実的世界の改善や進歩の為に使用されて行ったり、ソフトの異常発達により、人間の脳に直接的刺激を与える機器が開発されていったのだ。
 企業は、実社会改善企業と、非現実機器開発企業で別れ、前者は真面目な研究開発により世界をより善くしようとする人達で溢れ、後者は法律スレスレの犯罪めいた開発を行う人達の集まりである。
 この両者の中間層は、お互いに自分達の文化圏に人を引き入れようとし、犯罪の温床と軋轢とを産んでいった。

 大国は自民族の純血さを優先しようとしたが、移民達は独自のテリトリーで純血民族の中に溶け込もうとして、それらの軋轢を産んでいた。
 環境破壊と、不純異性交遊は、人類の遺伝子に異常をきたし、赤子の不健康で体の異常を起こした。
 食べ物は汚染され、大気は黄ばみ透明度が無く曇り、水は化学物質やプラスチックの破片等の不純物で濁っていた。
 それでも尚、人類はその対策を打たずに、他国間での技術競争を激化させた為、地球環境の改善策は後手に出ていた。

 そんな中でも、真面目な人間は存在し、各家庭を築き上げて子育てや家族愛を育んでいる社会である。
 3人が暮らす国のある夜、3人で冬の熱帯夜を空気の悪い野外を散歩していると、夜空が青白く星が疎らに見えていた。
 すると、急に雲が空を覆い始めて、辺りが暗くなった。雨が降ってきたのだ。稀な光景であった。気温は急激に低下し、寒さを感じた3人が建物に戻ろうとすると白い粒子がゆっくりと空から舞い降りてきた。
 雪であった。3人は初めて見る、しかし歴史の授業で習ったその雪の深々と降る景色の中、ただ宙を見上げて降り落ちて来る雪の粒を掌で受け止めて、その冷たさを感じていた。

 ディアラートが2人と別れてシェルターの中の自宅の部屋に戻ると、テレビのニュース番組で40年ぶりの雪が降ったと、キャスターが興奮気味に伝えていた。
 丁度、その年の12月の末日である。翌日は新年で、彼女は両親の住むシェルターマンションに短距離の帰郷をし、新年のお祝いをする日だ。
 0時を回った所で、ライトシェードとノーティスレスからメールが入ってきた。映写式携帯電話でそれを同時に壁に写すと、2人とも新年のお祝いの言葉を述べる動画であった。
 ディアラートは、その映像の彼の唇に軽く自分の唇を重ねる仕草をしてから、動画を消し眠りについた。

 シェルターの外は強風の中、雪が舞い、猛吹雪と成っていた。

 第8章「 宇宙空間への旅立ちの挑戦 」

 2100年頃になっていた。
 地球の最期へのカウントダウンに入ろうとしていた。何故なら、人口は170億人を超え、干上がった土地にシェルター建造物が溢れかえり、地下にも住宅街が張り巡らされ、森林は熱帯雨林でしか育たない樹木が繁殖しているからである。
 人類は植林を止め、人工大気組成調節器で外気の気体組成を調節していた。
 政治的、人種的、経済的紛争は度々、大人数で起こったが、それらも元気が無く、ただ弱った虚弱な身体で、デモ行進を繰り返すのみである。
 そして、妥協点でお互いに結論を結び、和平や協定という形でそれらは終息した。各国は戦争などもはやする元気もなければ、体力も無かった。
 虚弱体質の身体を抱えて、人類は身体の何処かに疾患を患っていたから、最早、自分が戦争で戦い死んでいく勇気も持ち合わせて居なければ、戦争による死の恐怖と闘う度量も既に失われていた。
 純粋な民族の国が殆ど無く、国民性が纏まらなかったのである。

 ディアラートとライトシェードは結婚していた。
 ライトシェードは30歳頃にノーティスレスと1度、恋人として付き合ったが、初恋の彼女は彼と性格的に合わなかった。お互いに愛し合っていても、上手くいかないこともある。
 賢い2人はお互いに別れる事を決意し、失意にあったディアラートに献身的な態度で接し、彼女の心を癒して信頼を回復していった。

 ディアラートとライトシェードは相性が滅法良かった。
 お互いに科学者であり、若い時分から共感する所が多くあった運命の人であったからだ。2人は、地球環境の事を考え、地球を離れて他惑星に移住できる方法を模索する議論を繰り返していた。
 ライトシェードは大学の研究員。ディアラートは宇宙開発系企業の研究職員である。仲間が増えていた。
 2人の自宅で、大学の教授や学生達、ディアラートの同僚を交えて、宇宙開発のディスカッションを、食事をしながら繰り返した。それはとても高度な内容で、どんな宇宙開発系企業よりも最先端の理論を行っていた。

 2人の間には2人の子供が居た。1人は長男で、1人は長女である。長男の名前は「アチーバー」、長女の名前は「スタァーシー」と名付けられた。
 2100年には、アチーバーは8歳、スタァーシーは5歳であった。
 2人の子供達は、超越した者であった。アチーバーは小学校に通いながら、既に大学の講義を受けていて、スタァーシーは幼稚園に行かずに母の勤める企業で母の助手をしていた。
 両親の教育方針が、そういったものでは無く、子供達が自然とそう成っていった。

 宇宙開発、地球脱出計画メンバーの輪は、100人くらいに成っていた。
 彼らは、下は5歳、上は80歳くらいにのぼっていた。それぞれに分野が違う仲間で、それぞれの専門分野の高度な知識を持ちより、宇宙旅行と他惑星での安全な生活を成し得る方法論を模索しては、計画書を作成している。
 1番の問題点は、宇宙船でも無く、宇宙空間での生活でも無く、如何に速く目的地である他惑星に到達するかである。

 この方法は幾つか議論に上げられた。通常予測されているワープ航法をどうやって成し得るか、仮死状態に身体をして永い時間を掛けて他惑星に向かうか、何らかの方法によって瞬間移動技術装置で他惑星に瞬間移動で移住するか、神の用いる技でも開発するか。

 そんな生活の中。ディアラートは愛するライトシェードとの空いた時間での夫婦生活を楽しんでいた。
 彼女は結婚しても純粋で、気品と品位を保っていた。あらゆる事を計画し、ライトシェードに愛情を伝えた。彼も頭が良く、彼女のそんな気遣いを受け取っていた。

 ある夜。ディアラートが眠りについていると、夢を見た。異星人なのか、地球には存在しえない絶世の美女で光り輝く女性が現れ、彼女と青空と夜の星空の同居する惑星の大地を歩いている。
 草原が広大に広がり、遠くに深緑の山々が見える。草原では、白いローブ姿の光り輝く女性とディアラートが並んで歩き、ディアラートは自分が歳をとっている事に気付く。
 アチーバーとスタァーシーらしき青年聖女の男女が、遠くでディアラートを気遣いながら、仲間達と農耕をしていた。

 美しき女性は、彼女にこの惑星での生活を尋ねてきた。ディアラートは、
「生活には苦労していますが、未だ、未知のこの惑星での生活には希望があります。愛する仲間達も居ます」
 美しい女性は更に尋ねた。
「他の惑星の仲間達とは連絡を取っているのですか? 」
 「ノーティスレスとは連絡を取っていて、時々、逢いに行きます。もう長年の友人ですから」
ディアラートはそう答えた。
「何より、不便は有りますが自然との共存が楽しいです。科学者の私が言うのもおかしいですが」
 美しい女性は微笑んで、その瞬間にディアラートは目が覚めた。

 朝食の席で、ライトシェードにその夢の話をすると、彼はどんな惑星であったのかを詳しく聴いてきた。彼女の話を聞くにつれ、彼の想像力が増し、記憶がフラッシュバックの様に蘇ってきた。

 これが地球滅亡の19年前の話であった。

 第9章「 方舟での出発 」

(これはあくまでもSF物語です)

 地球を宇宙空間から見下ろしている。その人々の人数は約1000人だった。
 戦争が地球上では始まっていた。環境的に恵まれない国と、比較的涼しい気候の国々での戦争が勃発した。大陸の砂漠サバンナ地帯から難民を抑制していた国に、難民が武装して北上したり南下したりしだした。
 難民達は食糧や水と土地を奪おうとして、数億人規模のゲリラ攻撃で平和な国々に襲い掛かってきた。戦火はたちまち地球上に広がって行き、世界中の地上都市、地下都市で昼夜を問わず、銃撃音が響き渡った。
 それは、人類の国々に憎しみをもたらし、気候をも一変させていた。食糧製造施設が襲われ、水を蓄えているタンクが強奪されて、ライフラインが破壊された。
 太陽は、その暑い熱で昼間は地上を照らし腐臭を漂わせ、夜間の星々の下では、ミサイルを発射する赤い閃光が絶え間なくフラッシュしていた。

 人々はその日、食する食べ物も自給自足か配給に頼り、腐った食べ残しの果物でさえ口にした。とにかく、食糧も水も全人類に行き渡らずに餓死者をも多数出していった。
 そんな陸地から海上に避難する者達に襲い掛かってきたのは、台風やハリケーンであり、海上からの熱い蒸気であった。まるで、世界の終わりが訪れた様な地獄図である。

 ライトシェードとその仲間達はそれを予測していて、準備していた特別なスターシップに乗り込み、ディアラートの会社経由の仲間達と宇宙空間へと、脱出シャトルとして乗り込み出て行った。
 地球上の土地に執着して土地と地位に固執し守り続けた者達は、戦火の渦へと巻き込まれて行き動けずじまいである。
 およそ100隻のスターシップに乗り込み宇宙空間へと出て行き地球を見下ろした者達が見た光景は、もはや青い惑星では無く、所々茶色く曇った火星の様であった。
「地球はもう終わりね」
ノーティスレスが呟いた。
その時、地球惑星の1点で、閃光が走ったと思ったら、一瞬にして黒い雲が広がった。それはまるでキノコの様な形であった。
 スターシップに乗っている子供から老人まで誰もが涙を流した。100隻のスターシップは距離を取りながら月面基地に向かった。月面基地に居る様々な人種の人達は、彼等を快く迎える事を了承してくれた。

 ライトシェード達のスターシップは、1時間で月面基地まで到着した。月面基地に取り残されている500人程の人達を、それぞれ振り分けて宇宙船に乗って貰い、会議に入った。予め準備していた計画を実行に移す時だ。
 食料と水は1500人の1日で食する量の30日分積んでいる。
 地球から10光年以内に存在している、衛星らしきものが無い人が住めそうな惑星は数えられる程度、過去の研究にて見付けられている。因みに、太陽系の直径は約1光年とされている。
 それぞれのスターシップには、放物線状に加速度を上げる事が出来、下げる事が出来る特殊装置を積んでいる。
 (ここからの数学はSFの世界の話とする)
 1(m/s2 mは距離、sは秒)~10000m/s2 まで加速度を上げて行きその分、内部の人間に慣性力を発生させない特殊装置で人体に掛かる負荷を軽減する方法で、一気に太陽系外に出る予定だ。

(ここからはSF数学です)
『本来、質量m(kg)を持つ加速度a(m/s2)を持つ物質に働く力F(N)は、 F=ma(N)
で表される。
速度V(m/s)=距離L(m)÷時間t(s)
です。これは、微分積分の範囲で、恐らく
質量m(kg)×V´(t)=F(t)の関係にあります。
何故ならば、質量と働く力は反比例し、速度勾配と質量は比例するからです。 要するに、速い速度を出そうとするにはより大きな力が必要であり、且つその力を一定の傾き割合で上げて行っても、一定質量の物を同じ傾き割合で速度を上げる事ができない。
簡単に説明すると、1kgの重さのオモリと2kgのオモリの物質を、同じ速度で水平に投げようとした時、水平速度は単に2kgのオモリに力を2倍加えれば可能に成る訳では無いのでしょう。』

(これはSF数学:仮に可能であるならば)
 F=(w/α)m×A (w/αは加速度が増した時に力Fを一定にする変数とする)
(mは一定質量、Aは増加減少変数加速度)

 後は、粒子の衝突と宇宙ゴミ、隕石、惑星、恒星との衝突を回避するシステム。また、宇宙の流れに対する設定目的地への移動軌跡補正定数で正確に目的地を目指すシステム。それに、光の速度を遥かに超す素粒子での情報伝達。
 これを搭載したスターシップとする。

 これにより、10光年以内に存在する地球に似た星系惑星の内、10惑星を10隻単位で目指す事にした。要するに、10打てば、1は当たり人類は生き残る事が出来る、「 一か八か 」方法である。

 予め決めて置いた10惑星に目掛けて、10隻ずつで出発した。方向はそれぞれバラバラだが、連絡は取り合える。
 ライトシェードは1番可能性のある惑星を選んで、妻ディアラートと子供達を同じ宇宙船に乗せて出発した。
 それは3光年離れた、生物が生存可能と思われる惑星であった。

 第10章「 新惑星の探査 」

 15日後、ライトシェードとディアラートを乗せた宇宙船と、7隻の宇宙船が惑星の引力圏に到着していた。
 2隻の宇宙船は原因不明でこの惑星上空に到着できなかった。それぞれの船外センサーでスターシップを見たら、宇宙船はボロボロに破損していた。
 新発見した惑星は地球と同じ色をしていた。この星系の恒星が宇宙船の後ろから惑星を照らしていて、どうやら自然衛星が幾つか存在しているようだ。
 直ちに、高知能生物の存在、大気組成を調べて、有毒ガス、ウイルス、細菌、等の検査をする為に8隻の船の内、1隻がこの惑星の大陸に当たる部分に不時着する事にした。
 食糧は残り15日間分しか残っていない。

 高感度カメラで捉えた新惑星の大陸部分には、どうやら都市が存在していない。大地には山脈と草原とむき出しの土壌が見て取れる。見た事のない動物だらけであった。
 1番破損の少ない宇宙船で不時着する事になった。ライトシェードがその船に乗り込むと、大気圏に入り惑星重力のままに惑星に高速で引き寄せられて降りて行った。宇宙船に乗っている人員は13名だ。
 高度が低く成るにつれ、宙が暗闇から青空になっていった。一同は宇宙船をコントロールしながら、各自の席で歓声を上げていた。そのまま、惑星上の大地に最新技術で垂直着陸に成功すると、上空の宇宙船からの歓声が通信網から聞こえてきた。

 直ぐに、小型無人探査機を船外に数機出して、大気組成、有毒ガス、ウイルス等の検査に入ると共に、金属製の折り畳み小型シェルターを大地に設置し、そこに3名が入り、宇宙服のまま大気洗浄組成変更装置を設置し、シェルター内で生活が出来る様にした。
 また、大型獣の来襲に備えて、自動機関銃等を設置した。
 緑に囲まれたこの惑星には必ず酸素が存在している。高速検査機で大気組成が、酸素比率を割り出すとやはり20%前後である事が判った。1番地球に似た惑星を選んで正解であった。次は食糧と水の確保である。
 近くの草木を無人機で採取して組成を調べて川を探した。水を採取し、同じく組成と毒素を調べる。それらを夜に成っても続けた。
 温度は肌寒く快適なくらいである。

 必要最低限の調査を終えた。
 この惑星は、どうやら地球人の身体に馴染みそうである。この惑星に降り立った13人の船員の内、1人の乗組員が宇宙服を脱いでみた。
 ここで、大気の厚さによる気圧で高山病、または潜水病を発生する恐れがある。また、湿気等による浸透圧、空気の組成の違いによる人体に溜まる毒素、その他沢山の問題点をクリアしなければ成らない。更に、地球との惑星の大きさの違いによる重力差の違和感が起こるはずだ。
 宇宙服を脱いだ1人の男は、最初は元気に飛んだり跳ねたりして喜んでいたが、数時間後に高熱を発症して寝込んでしまった。急いで、医学的に何が起こったのかを原因を調べてみると、どうやらこの惑星独特なウイルスに冒されたらしい。

 20時間を超える看病の末、男は一命を取り留めた。最新の技術を使いワクチンを製造して、他の12人全てに投薬した。他の者達は、それで1日間の間、宇宙服でシェルター内にて過ごした後に、皆で宇宙服を脱いでみた。
 すると、やはり皆がこの新惑星の環境に馴染んでいた。ライトシェードも。
 シェルターから外に出てみると、13人の眼に飛び込んで来たのは、満天の星空だった。地球から見た星座の位置とは少し違い、真っ暗闇の中、星々が煌びやかに密集して輝いていた。
 地球で言う所の月の様な自然衛星が、3個、天にバラバラに浮かんでいて、宙を紫色や金色や茜色に彩っている。それぞれが、満月であったり、三日月の様な恒星からの光の反射をして、金色に輝いている。
 ライトシェード達が見惚れていると、1人の男が呟いた。
「この惑星はなんて煌びやかなんだろう。この惑星の名前を『 煌びやかな惑星に因んで煌星(きせい) 』と呼ばないか」
 皆が同意するように頷いた。

 気温は5℃くらいであった。シェルターに皆で入り朝を迎えると。この惑星は人類が住む為には安全と判断し、他の7隻の宇宙船もライトシェード達の船の近くに不時着してきた。皆にワクチンを投与し、その3日後には8隻の宇宙船の皆が宇宙船から出てきて、ライトシェードとディアラートと子供達は抱き合った。総人数120人程の男女達である。

 草木や実の生っている植物から成分分析に掛けて、その毒性を調べた。食べる事が出来ると判断された物は、先ず老人が口にする事を申し出た。
 老人は、
「何て素晴らしい瑞々しい甘い味なのだろう」
と言い、次々に口にしていった。老人は勿論、無事であった。
 この煌星の風土に合うか解らないが、地球から運んできた植物の苗や種を、土を耕し蒔いて行った。近くの川から簡易のホースで運んできた水を撒く。水の毒性も殆んど無かった。

 ライトシェードとディアラートと子供達が夜になり、シェルター内で眠っていると光り輝く光輪がシェルターの中に降りてきた。
 子供達が寝ている時で、ライトシェードとディアラートがそれに気付き小銃を手に持ち半身を起すと、それは光り輝く美しい女性であった。
 ディアラートが、
 「 あなたは誰ですか? 」 と尋ねると、その女性は直接2人の脳に語り掛けてきた。
「 私は、あなた方の惑星の言語で発音すると、『 ミィヒャエル 』または『 ミカエル 』と言う者です。ようこそあなた方は、この大宇宙∞への1歩を踏み出しました。私はこの辺りの宇宙∞に溶け込んでいる者。困った事が有れば、私の名を呼びなさい 」

 そう言うと、シェルター内を黄金色に輝かせて、美しい女性は消えていった。
 翌日、2人はその話を子供達に話して、2人の子供達が頻りに、その女性の名前を呼んでみても、ミカエルは現れなかった。
 ライトシェードとディアラートは消沈していて、その日の夜を迎えた。2人は眠りの時間に寝袋に包まりミカエルの話をしていると、再び、彼女の気配がシェルターの外からして来るのを感じた。
 壁を通り抜けてシェルター内を黄金色にすると、ミカエルは2人に、
「 呼びましたか? 」
と尋ねてきた。

 ライトシェードとディアラートは寝ている子供達を起こすと、眠い目をした子供達に挨拶をする事を促した。
「 初めまして、ミカエル様。お願いが御座います。どうか私達に、この煌星に住まわせて頂く事をお許し下さい 」
 2人の子供達がそうお願いすると、ミカエルは慈愛の眼で子供達を見詰めて、こう囁いた。
「 それは許しましょう。ですが、私はこの星に住む為の助言だけを、あなた方に伝えましょう 」
 ミカエルはそれだけ言って、光と共にシェルターから姿を消した。
 そうして1ヶ月の月日が過ぎ去って行った。

 第11章「他の惑星での出来事」

 一方、他の9惑星に向かった10隻ずつの90隻の宇宙船は、それぞれ色々な困難に遭遇していた。

 ある惑星に到達した数隻の宇宙船は、未知の宇宙病で船員全員が全滅していて、ただ宇宙に漂う方舟と化していた。
 またある惑星に向かった10隻は、1隻たりとも目的地に着けずにその宇宙船が姿を消していた。
 ノーティスレースの向かった5光年先の惑星に、ノーティスレースの乗る宇宙船と7隻のスターシップが青茶色い惑星上空に到着していた。この惑星も地球と同じ色をしているが少し、茶色掛かっている。自然衛星が存在するかは不明だが、岩石か砂地の大陸が多く存在している事が、上空の望遠鏡からの観測で判った。出発から4日後であった。

 男性船員を乗せた艦艇が、地上へと降りて行った。この惑星は、空気が澱んでいて森林は存在するが、砂漠が多く砂の吹雪の様なものが絶えず吹いていた。
 ここも高知能生命は存在していない様で、攻撃なり電波なりの警告は無かった。この恒星系の惑星の上空に残った7隻の宇宙船が惑星を観測してみると、低度な文明の様な痕跡が数ヶ所存在している。どうやら、水の確保や砂嵐等の影響で低度な文明が滅び、高等生命の伊吹が感じられなかった。

 着陸船は、一旦は砂地の所に着陸したが、そのまま惑星の高度3000メートル付近を周回して川と緑のある土地を探した。深緑と青い幅の広い川を発見すると旋回し、草原に着陸した。
 直ぐに金属製折り畳みシェルターを船外に放出して、宇宙服のまま4人の男達がシェルターの中に入った。そして、無人探査機も同時に船外に放出した。

 すると、大きな地鳴りの様な音が聞こえてきた。船内の乗員がレーダーでそれを感知すると、大きさが40メートルはあろうかと云う動体物が数個程動いている。どうやら大型動物の様だ。
 未知の土地なので先住民族であったら戦争に成ってしまうので、催眠弾を使用する事にした。その数頭が距離1000メートル付近に来た時に、正確に宇宙船から催眠弾を発射し命中させた。数頭の動物らしき物体は宇宙船から700メートル程の距離の所で動きを止めた。
 船内の2人が装備をして、電気バイクでその1頭の所にバイクを走らせてみると、それは恐竜の様な形をした内骨格硬皮生物であった。2人の内の1人が、
「 なんてこった。これは恐竜か? 」
と無線で隣の船員に尋ねると、彼も頷いた。
 生きているが眼を閉じているその生物のサンプルを取ると、写真を数枚撮り、宇宙船に2人は戻って行った。

 宇宙船に戻った2人は、遺伝子解析装置にサンプルを掛けると、地球から持ってきてデータベースの恐竜の化石の遺伝子に近い事が判明した。
 シェルター内では大気の組成成分の調査が続いていたが、それが終わると地球の大気に近い事が判明した。後は未知のウイルスへの対策だけである。
 地球上に存在しているウイルスの抗体は既に全員備えている。1人が宇宙服を脱いでみると、やはり数時間後に体調不良を起こした。シェルター内のベッドに彼を寝かせて最新式の検査装置でその原因を調べると、やはり地球には存在しないウイルスである。
 ウイルスは生命体でもあり、無生命体でも有り得るので、その対処の仕方を考えてみた。地球上に存在していたウイルスに近いものをコンピューターで割り出し、そのワクチンを投与してみた。数時間後には、彼は一命を取り留めた。
 そして、その抗体を全員に同じ様に投薬する。それでこの惑星での生活が出来る様になった。全機がこの惑星に降りてきた。

 この惑星の昼間の温度は相当に暑いが、夜は急激に気温を低くする。言わば、太古の地球の様な星である事が分析結果から判った。即座に、宇宙船が宇宙空間で待機していた時に得ていたデータでこの惑星の地形を大まかに地図化してみる。山の標高、平野の位置、川の流れ方、大陸の形、島々の配置。海と陸地の比率は『 67:33 』であった。

 ノーティスレースが他の惑星に行った仲間達と連絡を取る事を試みる。宇宙空間に置いてきた小さな人工衛星を通じて。
 すると、10惑星を目指した仲間の中から、2惑星から連絡が1日以上のタイムラグで届いた。その中からは、ライトシェード達の惑星からの連絡も含まれていた。
 少なくとも、3惑星への移住は成功した様だ。

 この時には未だ、緊急事態の連絡は無かった。

 昼の燃える様な太陽の熱の暑さが過ぎてTシャツ姿で過ごして居たノーティスレースがシェルターを出て夜風に当たっていると、やはり夜空は星が満天の宙があった。
 強い夜風で彼女の髪が、大きく靡いていた。この宇宙の何処かに、ライトシェードとディーアラートが居るのかと思うと不思議な気分であった。
 星々の輝いている宙を見上げていると、偶に流れ星が明るい線を引いて流れていた。この星で一生を終えて行くのかどうか。彼女には期待と不安が入り混じった感情が沸き立った。

 ノーティスレースはその時、不意に頭に考えが過ぎった。
『 地球はどうなっているのかしら? 』

 太陽と思われる恒星が肉眼で、夜空に彼女の眼に映っていた。

 第12章「 地球からの人類の脱出劇 」

 (これはSF小説です。人類の未来は皆様の行動に掛かっています)

 地球は砂埃と黒煙の立ち込める、大陸の10分の1以上が廃墟の惑星と成っていた。大気は黄色く濁り、放射能値も小さく無い。
 宇宙開発系企業や富裕層の宇宙空間へと出て行ける一部の人達は、宇宙空間へと一定期間の間、避難する手段を講じていた。

 そこに、ある通信方法にて全世界に向けて、メッセージが寄せられた。

「 私は3ヶ月前に地球を脱出した者です。もし、地球の人類、動植物が生存していたら、このメッセージを受け取って、次の手段を行って下さい。
 宇宙開発会社に残してきたデータベースから、ある地点に隠している宇宙船300隻が在ります。それには先ず、子供、女性から乗せて指示書通りの操作方法で地球脱出を図って下さい。
 現在、地球に似た人類の住める惑星は4惑星存在しています。座標設定はデータベースに入っています。
 また、同じタイプの宇宙船の造り方は、宇宙開発会社のデータベースに保存されています。生存者は速やかに指示書に従い行動を起こして下さい。 」

 地球の環境を悪くし、とても戦争をしている状況では無い各国間での戦闘は、一時停戦状態にあったので、各国はその指示の通りに調査員をその場所に派遣してみた。
 すると、メッセージの通りに田舎の森林の広大な土地の地下に、大型宇宙船が300隻見付かった。そして研究設備の様な棟には、巨大設備とコントロールコンピューターが存在している。
 専門家が観察してみたり操作してみると、操作方法は簡単に理解出来た。だが、理論の部分が理解不可能である。しかし、宇宙船の造り方は設計図から動力・電気系統まで全てデータ化されている。

 数十日掛けて、漸く、1隻の宇宙船を宇宙空間に飛び立たせる準備が出来て、宇宙船乗組員が20名乗り込んだ。いざ手順通りに操作してみると、その宇宙船は1瞬で宇宙空間から茶色い地球を見下ろしていた。
 地球上人類が沸いた。そして、メッセージを送ってきた相手と交信を試みた。すると次のメッセージが約1日後に宇宙船経由で人類に届いた。

「 私は宇宙開発会社に勤めていましたディーアラートという者です。地球の皆様、ご無事でしたか。安心しました。現在、我々のチームは、太陽系から10光年以内の4惑星に移住する事に成功しました。
 4惑星の内、どの惑星に移り住むかは自分達で決めて下さい。それぞれの惑星の気候や環境はデータとしてお送りします。
 旅の御無事をお祈りします。 」

 そうすると、一緒に送信されてきたデータに、4惑星それぞれの風景や動植物や星空の映写動画を観る事が出来た。
 それぞれの惑星の名前は、『 煌星 』『 干星 』『 緑星 』『 美宙星 』と名付けられていた。人類の宇宙への旅立ちの瞬間であった。

 既に、他の宇宙船も宇宙への旅立ちの準備に入っている。各国は宇宙船を造り始める計画を立てている。

 その時であった。第5惑星から突然、緊急事態のメッセージが寄せられた。それは、10番目に遠い惑星目掛けて旅立って行った、ライトシェード達の仲間からのものであった。
 「 今、我々の宇宙船は3隻現存しているが、原住高等生命と応戦中である。直ちに救援に来て欲しい。 」

 それは宇宙船の連絡ツールで他の4惑星にも時差を空けて伝わっているはずだ。地球では、この惑星の位置を宇宙開発会社の設備で割り出し、仮に『 M10 』という惑星の 名前を付けた。
 地球から、この惑星に宇宙船30隻で行く事に決め、残りはそれぞれ4惑星に向かう事に決めた。
 未だ、存在しているかも判らない未知の宇宙への旅路である。4惑星の位置と距離は大型高性能望遠鏡で確認済みである。
 地球に残っている人類は皆、それぞれの心に期待と不安を抱えて300隻の宇宙船の出発を見守っていた。

(これはSF小説です)

続編『 未知の宇宙への方舟 Ⅱ 』を御期待下さい。